「年収600万・リモート・残業なし」を
確率で計算したら、340人に1人だった
以前、婚活の希望条件をひとつずつ確率にして掛け合わせたところ、「普通の男性でいいんです」の条件を満たす人が1億2000万人のうち約100人になる、という記事を書きました。同じ計算を、今度は転職の希望条件でやってみます。
「年収600万円以上、リモートで働けて、残業がなくて、完全週休2日で、働く時間もある程度自分で決められる」。転職相談で普通に出てくる条件です。どれも突飛ではありません。では、これを全部満たす働き口はどれくらいあるのか。
使うのは、すべて公表されている政府統計です。推計も体感も混ぜません。
条件を一つずつ、統計の数字に置き換える
| 条件 | 割合 | 出典 |
|---|---|---|
| 年収600万円超 | 24.9% | 国税庁 令和6年分 民間給与実態統計調査(1年を通じて勤務した給与所得者) |
| リモートで働ける | 24.6% | 国土交通省 令和6年度 テレワーク人口実態調査(雇用型テレワーカーの割合) |
| 週の就業時間が42時間以下 | 64.1% | 総務省 労働力調査 2025年平均(正規の職員・従業員) |
| 完全週休2日制 | 65.2% | 厚生労働省 令和6年 就労条件総合調査(適用労働者割合) |
| フレックスタイム制がある | 11.5% | 厚生労働省 令和6年 就労条件総合調査(適用労働者割合) |
1つずつ補足します。年収600万円超は、1年を通じて勤務した給与所得者5,137万人のうち約1,277万人。ちょうど4人に1人です。
リモートは、週1日でもテレワークをしている人を含めた数字です。「完全リモート」に限ればもっと下がりますが、そこまで厳しくしていません。
残業は分布そのものが公表されていないので、週の就業時間で代用しました。法定は週40時間ですから、42時間以下ならおおむね「残業はほぼ無し」です。ちなみに週49時間以上(月40時間超の残業に相当)で働いている正社員は18.1%います。
フレックスタイム制は「裁量がある」の代わりです。裁量労働制(専門業務型1.4%+企画業務型0.2%)だと1.6%しかないので、もう少し広く取りました。
掛け算すると、こうなる
0.249 × 0.246 × 0.641 × 0.652 × 0.115 = 0.00294
→ 約0.29% = およそ 340人に1人
条件を5つ並べただけで、340人に1人です。ここには「仕事内容が面白い」も「人間関係が良い」も「通勤しやすい」も入っていません。それでこの数字になります。
条件は足し算のつもりでも、確率は掛け算で減っていく。
婚活の記事でも書いたことですが、条件を1つ足す作業は、体感では「もう1つお願いを言う」だけです。ところが確率のほうは、そのたびに残った候補の何割かを切り落としています。この非対称が、「条件はそんなに厳しくないはずなのに、なぜか見つからない」の正体です。
どの条件が一番高くついているのか
ここからが実用的な話です。5つの条件を1つずつ外すと、候補が何倍に増えるかを計算しました。
| 外す条件 | 残る割合 | 候補は何倍に |
|---|---|---|
| フレックスタイム制 | 2.56% | 8.7倍 |
| リモート | 1.20% | 4.1倍 |
| 年収600万円超 | 1.18% | 4.0倍 |
| 残業(週42時間以下) | 0.46% | 1.6倍 |
| 完全週休2日制 | 0.45% | 1.5倍 |
直感に反する結果ではないでしょうか。多くの人が最初に妥協するのは年収です。ですが、候補の数をいちばん狭めているのは「時間の裁量」でした。フレックスタイム制の適用を受けている労働者は、全体の11.5%しかいません。
ただし、この掛け算には嘘がある
ここまでの計算は、5つの条件がたがいに無関係(独立)であると仮定しています。そして、その仮定は明らかに成り立っていません。
同じ調査から、企業規模別の数字を並べるとはっきりします。
| 企業規模 | 完全週休2日制 | フレックスタイム制 |
|---|---|---|
| 1,000人以上 | 72.3% | 34.9% |
| 300〜999人 | 66.9% | 19.6% |
| 100〜299人 | 61.4% | 9.2% |
| 30〜99人 | 53.6% | 4.4% |
フレックスタイム制は、1,000人以上の企業では34.9%、30〜99人の企業では4.4%。約8倍の開きがあります。そして高い給与も、テレワークの実施率も、同じように大企業と情報通信業に偏っています。
つまり、5つの条件は同じ場所に固まって存在しています。ばらばらに散っているわけではありません。ですから実際の割合は、340人に1人よりも高いはずです。
ではこの計算は無駄だったのかというと、そうではありません。この掛け算が教えてくれるのは「絶対数」ではなく「どの条件が高いか」の順位です。順位は、相関があってもそれほど狂いません。そして順位が分かれば、次にやることも決まります。
結論:探し方を変えたほうが早い
- 条件が固まって存在しているなら、条件で探すのをやめる。「フレックスあり・リモート可・年収600万」で絞り込むより、その条件が集中している業種と規模を先に決めて、その中を全部見るほうが早い。
- 妥協するなら、効く条件から。候補が8.7倍になる条件と、1.5倍にしかならない条件があります。全部を少しずつ譲るのは、いちばん損な譲り方です。
- すでに多数派の条件は、譲らない。完全週休2日制と残業の少なさは、いまや標準に近い。ここを我慢する理由はありません。
そしてもう一つ。340人に1人という数字は、「あなたの希望が贅沢だ」という意味ではありません。1つ1つの条件は、いずれも4人に1人から3人に2人が満たしているものです。ただ、それを5つ同時に求めた瞬間に、探し方のほうを変える必要が出てくる、というだけの話です。
数字は、希望をあきらめさせるためのものではありません。どこで粘り、どこで手を打つかを決めるための道具です。