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RAGはマネージドか、自前か——AWS Bedrock と pgvector を両方作って分かったこと

POSII COLUMN / RAG導入の判断 #5

RAGはマネージドか、自前か
——AWS Bedrock と pgvector を両方作って分かったこと

性能の差ではありません。どこで手間を払うか、その置き場所が違うだけです

社内RAGを作るとき、最初に決めるのがこれです。AWS Bedrock のようなマネージドサービスに任せるか、pgvector で自前に持つか。

調べると「マネージドは楽、自前は安い」という説明が出てきますが、実際に両方作ってみるとそんなに単純ではありませんでした。楽な部分と面倒な部分が、きれいに入れ替わるだけです。

この記事では、両方を本番まで持っていった立場から、何がどう違ったかを書きます。

結論から:判断はこの3つで決まります

問い 答えがYESなら
データを社外に出せないか 自前(ここで決まることが多い)
すでにPostgreSQLが本番で動いているか 自前が有利
インフラを見る人が社内にいないか マネージド

1番目が最も強い条件です。データを外に出せないなら、そこで議論は終わります。残り2つは、その制約が無いときに効いてきます。

費用は「どこにかかるか」が違う

総額の話をする前に、お金の性質が違うことを押さえておく必要があります。

項目 マネージド(Bedrock) 自前(pgvector)
初期構築 やや軽い やや重い
埋め込み 文書量に比例して課金 0円(ローカルモデル)
ベクトルの保管 月額が発生 0円(既存DBに同居)
インフラの運用 AWSが持つ 自分で見る
推論 使った分 使った分

マネージドの実装はDjangoからAWS Bedrock Knowledge Bases を呼び出す、運用はKB自動作成・同期・監視の勘所に書きました。自前の実装はDjango × pgvectorです。

マネージドは毎月かかり続けるものが増える代わりに、運用の手間が減ります。自前はその逆です。

よくある誤解として「自前のほうが必ず安い」がありますが、インフラを見る人の時間を数えれば逆転することがあります。社内にPostgreSQLを見ている人がすでにいるなら自前が安く、いないなら実質的にはマネージドのほうが安いこともあります。費用の内訳はこちらに詳しく書きました。

作ってみて、いちばん差が出たところ

① 試行錯誤のコスト

これが想像以上に効きました。

RAGは一発で精度が出るものではなく、チャンクの切り方を何度か変えて試すのが普通です。ところが埋め込みが従量課金だと、試すたびにお金がかかります

結果として起きるのが、「もう一回やり直すと費用がかかるから、この精度で妥協しよう」という判断です。技術の問題ではなく、心理の問題として設計が固定されます。

自前でローカルモデルを動かしていれば、何度やり直しても0円です。納得するまで試せます。金額そのものより、この差のほうが成果物の質に効きました。

② 権限を業務データと結合できるか

社内RAGでは「この人にこの文書を見せていいか」の判定が必ず要ります。

自前なら同じデータベースにあるので、SQLひとつで済みます。ベクトル検索の結果と権限テーブルを直接JOINできる。

マネージドだと、検索結果のIDを持ち帰ってから、アプリ側で権限テーブルと突き合わせる処理を書くことになります。これは書けますが、件数が合わない・権限が漏れる・順序が狂う、というバグが出やすい場所です。テストの手間も含めると、開発費に効いてきます。

別々に置くと、
繋ぐためのコードを毎回書くことになる。

③ 運用で誰が起きるか

ここは逆にマネージドが強い部分です。

自前で持つということは、PostgreSQLのバックアップも監視もバージョン更新も自分で見るということです。すでに本番でPostgreSQLを運用しているなら追加の負担はほぼありませんが、RAGのために初めてDBを持つなら、話が変わります

マネージドなら、その部分はAWSが持ちます。夜中に起こされる可能性が減るのは、金額に換算しにくいけれど確実な価値です。

④ モデルを差し替える日

どちらの構成でもいずれ必ず発生します。より精度の高いモデルが出る、コストを下げたい、次元数を落としたい。

このとき全チャンクの再計算が必要になります。

  マネージド 自前
再計算の費用 もう一度かかる 0円
切り替えの制御 サービスの作法に従う 自分で設計できる
切り戻し 制約を受ける 並存させれば設定ひとつ

自前なら新旧のベクトルを並存させて、参照先を切り替えるだけにできます。精度が期待外れだったとき、設定を戻すだけで元に戻る。詳しくは後から効いてくる費用に書きました。

それでもマネージドを選ぶ場面

ここまで自前寄りに読めたと思いますが、マネージドが正解の場面は確かにあります

  • インフラを見る人が社内にいない。これが最大の理由です
  • すでにAWSに寄せている。権限管理も監視も同じ仕組みに乗せられる
  • 文書量が桁違いに多い。数千万チャンク規模になると、自前のチューニングが本業になってしまう
  • まず動かして判断したい。構築が軽いぶん、立ち上がりは速い

特に最後は見落とされがちです。「使われるかどうか分からない段階」では、速く立ち上がることのほうが価値があることがあります。

両方作って分かった、いちばん大事なこと

意外に思われるかもしれませんが、この選択で成果物の精度は変わりませんでした

精度を決めていたのは、構成ではなく入れる文書の状態チャンクの切り方でした。マネージドでも自前でも、整理されていない文書を入れれば、同じように使えないものができます

構成の選択で変わるのは、
費用のかかる場所と、手間のかかる場所だけ。

だから「どちらが優れているか」で悩む時間は、そのぶん文書の整理に使ったほうが効きますなぜ見積もりが当たらないのかに書いたとおり、ここが唯一まともに予測できない部分です。

まとめ

  • 判断は「データを社外に出せるか」でほぼ決まる
  • 費用は総額ではなくかかる場所が違う。マネージドは月額、自前は運用の手間
  • 試行錯誤が無料になることが、自前のいちばん効いた利点だった
  • 権限を業務データと同じDBで結合できるのも自前の強み
  • インフラを見る人がいないなら、マネージドが正解
  • モデル差し替えはどちらでも必ず来る。自前は切り戻せる形にできる
  • 構成の選択で精度は変わらない。精度を決めるのは文書の状態

それぞれの実装記事

この記事では判断の基準を扱いました。実際の実装と運用は、構成ごとに別記事にまとめています。

POSIIでは、マネージド・自前の両方でRAGを構築しています。「どちらが向いているか」の切り分けからご相談いただけます。小規模な構成であれば30万円台から、保守は月1万円から。まずは対象の文書を見せていただいたうえで、実際にかかる費用をお出しします。

ご相談はこちらから

最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

大河原潤

大河原 潤

AI開発専門家

ブーム以前からAI研究に携わる、本物の専門家。「AIに使われる」のではなく、「AIを使いこなす」確かな技術力を提供します。

【アカデミックな裏付け】

  • カリフォルニア大学リバーサイド校 博士前期課程修了(研究分野:測度論、経路積分)
  • アメリカ数学会のジャーナルに論文発表

【社会的に認められた専門性】

  • AI関連書籍:『誤解だらけの人工知能』(2018年)、『AI×Web3の未来』(2023年)
  • プログラミング専門書:実務的な技術書を2冊出版(確かな実装力の証明)
  • 100社以上のAI導入コンサルティング実績、特許売却経験あり