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「中学生以下はAI禁止」。ニューヨーク市の決断は、正しい。

POSII COLUMN

「中学生以下はAI禁止」。
ニューヨーク市の決断は、正しい。

——約60万人を1年間止めた判断と、まだ知られていない「AIは記憶と判断力を削る」という研究

ニューヨーク市が、2026-27学年度から1年間、公立校の2歳児クラスから8年生までの生成AI利用を原則禁止すると発表しました。対象は約60万人。市内の公立校に通う子どもの、およそ3分の2にあたります。

報じられ方は「全米で最も厳しい措置」でした。SNSでは「時代に逆行している」「AI後進国になる」という反応も見ました。

私は逆に考えています。この判断は正しく、しかも遅すぎたくらいだと思っています。理由を、研究の話も含めて書きます。

まず、ニューヨーク市が決めたこと

項目 内容
対象 公立校の2歳児クラスから8年生(13〜14歳)まで。約60万人で、市内公立校の生徒のおよそ3分の2
期間 2026-27学年度の1年間
禁止の範囲 児童・生徒が直接操作する、生成AIを搭載したすべてのソフトウェア。AIチャットボットは全学年で禁止
教材 38を超える教育ソフトについて、利用そのものを終了するか、AI機能を無効化する
例外 障害のある生徒と、英語学習者は引き続き利用可
高校生 全面禁止はしない。全高校生に年2回・各45分のAIリテラシー教育。最大5万人(約5%)規模の限定パイロットを教師の監督下で実施
その後 生徒・教員・保護者・専門家からなる組織が1年かけて影響を検証し、報告書と提言をまとめる

発表文のなかで、いちばん重要だと思った一文を引きます。

「テクノロジー業界は、AIを活用した幼児教育が避けられないだけでなく、必要でもあるとわれわれに信じ込ませようとしているが、われわれはそう考えていない」マムダニ市長(発表文より)

この政策の本体は、AIの是非ではありません。「不可避だ」という語り口そのものを疑ったことです。子どもにAIを持たせるかどうかは、技術の進歩が勝手に決めることではなく、大人が決めることだ——そう宣言した。ここが新しい。

市長はもうひとつ、こうも言っています。「子どもたちは学び、成長するために教師や人との繋がりを必要とする」「子供たちは自分で考えることを学ぶ必要がある」。

これは「AI禁止」ではなく「順番の変更」だ

誤解されやすいので先に整理します。ニューヨーク市は、AIを教えないと言ったわけではありません。

  • 高校では止めていない:9〜12年生には限定パイロットと職業準備プログラムを残し、リテラシー教育も新設した
  • 止めたのは13〜14歳まで:それも、まず1年
  • 止めた期間に検証する:止めっぱなしではなく、当事者を入れた検証と提言がセットになっている

つまり「AIを教えない」のではなく、「自分の頭で考える経験を、AIより先に積ませる」という順番の話です。

そしてこの「順番」に、実はきちんとした研究の裏づけがあります。後で書きます。

スマホのときに何が起きたかを、私たちはもう知っている

以前、ニューヨーク大学の社会心理学者ジョナサン・ハイトの『不安の世代』を取り上げた記事を書きました。要点だけ再掲します。

  • 2010年前後を境に、10代のメンタルヘルス指標が各国で一斉に悪化した。うつ、不安障害、自傷、自殺
  • 30歳以上には同じ変化が起きていない。だからこれは、社会全体を襲った出来事ではなく、子どもと10代にだけ起きた何かだ
  • ハイトが挙げる4つの害:社会的な剥奪、睡眠不足、注意の断片化、依存
  • 日本も同じ形:小中高生の自殺は529人(2024年)で、統計のある1980年以降で最多。大人の自殺は減っているのに、子どもだけが増えている
  • 青少年のネット利用は1日およそ5時間27分、高校生では約6時間44分(こども家庭庁調査)

そして、あの記事でいちばん書きたかったのは、統計の話ではなく「間に合わなかった」という一点でした。

スマホが子どもに有害だという因果関係は、いまも完全には証明されていません。疫学的な因果が短期間で確定することは、まずないからです。タバコと肺がんも、鉛と子どもの発達も、石綿と中皮腫も、決着までに数十年かかりました。

つまり「証明されてから動く」は、実質的に「害が出るまで待つ」のと同じです。そして証明が出そろう頃には、いま10歳の子どもは大人になっている。スマホについて、私たちは結局その道を通りました。誰も止めなかったし、止めるべきかを議論する場すらないまま、「スマホを基盤とした子ども時代」が標準になった。

ニューヨーク市がやったのは、この順番をひっくり返すことです。証明を待ってから止めるのではなく、止めてから検証する。スマホのときにできなかったことを、AIでやった。この決定のいちばん重要な点はそこだと思っています。

ここからが、まだあまり知られていない話

「スマホは目に悪い」「夜更かしになる」までは、もう世間の常識です。しかしAIそのものが、子どもの記憶力と判断力に何をするのかは、ほとんど話題になっていません。

研究のほうは、すでに出はじめています。

① 記憶:使った本人が、自分の書いた文章を思い出せない

MIT Media Lab の「Your Brain on ChatGPT」という研究があります。54人の被験者に脳波計(EEG)をつけて小論文を書かせ、3つのグループに分けました。ChatGPTを使う群、検索エンジンを使う群、何も使わない群です。

  • 脳のつながりが弱くなった:外部の支援が多いほど、脳内ネットワークの結合は系統的に弱くなった。何も使わない群がもっとも広く強く、検索群が中間、ChatGPT群がもっとも弱い
  • 自分が書いた文章を思い出せない:書き終えたあとに「いま自分が書いた文章を引用してください」と求めると、ChatGPT群は大半が引用できなかった。24時間後の想起でも、何も使わなかった群との差ははっきりしていた
  • 所有感が薄い:インタビューでも、ChatGPT群は「自分の文章だ」という感覚が低かった

研究者はこれを「認知的負債(cognitive debt)」と呼びました。いま楽をした分は、消えるのではなく、あとで返すことになる借金だという見立てです。

そして、冒頭の「順番」の話に戻ります。この研究には4回目のセッションがあって、そこで道具を入れ替えました。結果はこうです。

先に自力で書いてから後でAIを使った人は、脳の活動も記憶も保たれた。
先にAIを使ってから自力に切り替えた人は、そうならなかった。

これは大学生・成人を対象にした研究の話です。子どもには、そもそも「先に自分でやった」蓄積がありません。順番を守らせようにも、守る前の側がまだ存在していない。ニューヨーク市が止めたのが、まさにその年齢層です。

② 判断:AIを信頼するほど、人は自分で考えなくなる

もうひとつ、Microsoft Research とカーネギーメロン大学が2025年のCHI会議で発表した調査があります。週に1回以上AIを使う知識労働者319人に、実際の業務936事例について聞いたものです。

  • AIを信頼している人ほど、自分で批判的に考えた量が減っていた(自己申告ベース)
  • 逆に、自分自身のスキルに自信がある人ほど、批判的思考を維持していた
  • 仕事の性質が移った:「情報を集める」から「AIの答えを検証する」へ。「問題を解く」から「AIの出力を統合する」へ。「作業する」から「監督する」へ

この「検証する」という言葉に、大事な前提が隠れています。検証するには、検証できるだけの知識が自分の中になければならない。

大人はそれを持っています(持っているつもりの人も多いですが、少なくとも比較する材料はある)。しかし子どもは持っていません。検証できない人にとって、AIの出力は「検証の対象」ではなく、ただの「正解」です。

③ そもそも人は「あとで調べられる」と思うと覚えない

これは新しい話ではありません。2011年、Sparrowらが『Science』に発表した実験では、あとで検索できると分かっている人は、内容そのものではなく「どこにあるか」を覚えるようになることが示されました。いわゆるGoogle効果、デジタル健忘です。

検索エンジンでこれなら、答えそのものを組み立てて出してくるAIでは、外部化はもっと深いところまで進みます。検索は「探す」作業が残りますが、AIは探す作業ごと引き受けてしまうからです。

記憶が外に出れば、判断も外に出る

記憶と判断は、別々の能力ではありません。

判断とは、自分が知っていること同士を突き合わせる作業だ。

手元に材料がなければ、突き合わせようがない。だから記憶の外部化は、遅れて必ず判断力の問題として出てきます。「AIに聞けばいい」を繰り返した子どもに残るのは、答えでも、答えを出す力でもなく、答えのありかだけです。

しかも判断力の厄介なところは、失われても本人が気づけないことです。記憶力なら「思い出せない」と自覚できますが、判断力は「間違った判断に、自信を持って到達する」という形で壊れます。Microsoftの調査で「AIを信頼している人ほど批判的思考が減る」という結果が出たのは、まさにこの形です。

大人でこれなら、子どもはどうなるのか

以前、「AI病」という記事を書きました。妻に「そんなこと、AIにも分かるよ」と言われて言い返せなかった、という話です。子どもがSNS上の「理想の他人」と自分を比べて自己評価を下げたように、大人はAIという「理想の処理速度」を物差しにして人間を値踏みしはじめる。そういう内容でした。

ただ、大人にはまだ救いがあります。AIが来る前に、自分の頭で考えてきた数十年分の蓄積があるからです。それでも物差しが壊れる。

子どもは違います。蓄積を作る前に、AIに出会います。

  • 大人:自分の判断がある → AIと照らし合わせる → 楽をする(土台は残る)
  • 子ども:自分の判断がまだない → AIの答えが最初の判断になる → 照らし合わせる側が育たない

これは「AIに頼りすぎ」という程度の話ではありません。判断の土台が作られないまま大人になるという話です。

ハイトは、「遊びを基盤とした子ども時代」から「スマホを基盤とした子ども時代」への組み替えが起きたと書きました。いま、そこにもう一段が加わろうとしています。「AIを基盤とした子ども時代」です。

予想される反論に、先に答えておきます

  • 「AI教育で世界に遅れる」:ニューヨーク市は高校を止めていません。むしろ年2回のリテラシー教育を新設しています。止めたのは13〜14歳まで、しかも1年です。一方で、失う側の時計は違います。判断の土台は、その年齢でしか作れません。1年の遅れと、土台の欠落は、取り返しやすさが違う
  • 「使い方次第だ」:その通りです。ただしMITの結果が示した「正しい使い方」とは、先に自分でやることでした。8歳や10歳の子に「まず自力で考えてから使いなさい」を守らせる設計が、いまの学校とアプリにあるでしょうか。無いなら、環境の側で順番を担保するしかない。それがニューヨーク市のやったことです
  • 「エビデンスがまだ弱い」:弱いです。因果は10年では出ません。そして「まだ決定的ではない」と言い続けることは、売る側にとっていちばん都合がいい。嘘をつく必要すらなく、判断を先送りさせるだけでいい。だからニューヨーク市は逆をやりました。1年止めて、その間に自分たちで検証する。エビデンスを待つのではなく、作りにいった

「証明されるまで様子を見る」は中立ではありません。それは現状維持のほうに賭けるという、ひとつの選択です。

日本はどうか

文部科学省は2023年7月に暫定ガイドラインを出し、2024年12月にVer.2.0へ改訂しました。タイトルは「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」です。誤りを含みうること、個人情報や著作権への注意は、きちんと書かれています。

ただし枠組みは、あくまで「どう使うか」です。「そもそも何歳から触れさせるか」を問う枠組みにはなっていません。

日本の子どもは、すでにネットに1日およそ5時間27分、高校生は6時間44分を使っています。その画面の中に、これからAIが標準機能として入ってきます。学習アプリにも、検索にも、端末そのものにも。ニューヨーク市が38を超える教育ソフトのAI機能を止めると言ったのは、まさにここのことです。「AIを使わせる/使わせない」の判断が、いつのまにか導入済みの機能として済まされてしまう。

私は「日本もいますぐ全面禁止しろ」と言うつもりはありません。ただ、「何歳から」を議論する場が、いまの日本には無いことは指摘しておきたい。ニューヨーク市が作ったのは、禁止そのものよりも、その問いを立てる場のほうだと思っています。

家庭で、今日からできること

  • 宿題は「先に自力で、AIは後」:MITの結果がそのまま使えます。順番を変えるだけで、あとに残るものが変わる。禁止するより現実的です
  • AIの答えに「なんで?」と聞く癖をつける:答えを受け取るだけの往復を、検証する往復に変える。これは判断力の練習そのものです
  • 寝室に端末を持ち込まない:ハイトの4つの害のうち「睡眠」は、いちばん対策が簡単で効果が実感しやすい。充電場所をリビングに固定するだけで運用できます
  • 大人が先に置く:子どもだけに求めても通りません
  • まわりと揃える:ひとりでやると「うちの子だけ」に負けます。学年やクラス単位で申し合わせる

結び

ニューヨーク市は、AIを否定したのではありません。子どもが自分の頭で考える経験を、AIより先に置いただけです。是非の話ではなく、順番の話です。

スマホのときは、誰も止めませんでした。止めるべきかを議論する場すらないまま標準になり、数字は10年以上たったいまも悪化し続けています。

今度は、止めた都市があります。1年後の検証で何が出てくるにせよ、「止めてから考える」という選択肢が実在することを示したという一点で、この決定は正しいと思います。

弊社がAIでメンタルケアに取り組んでいるのも、AIに判断を代わってもらうためではありません。自分の心がいまどういう状態にあるのかを、自分で把握できるようにするためです。判断を肩代わりする道具ではなく、自分が判断するための材料を返してくれる道具でありたい。子どもについても、大人についても、そこは同じだと思っています。

参照・出典

  1. 「中学生以下の生成AI利用を原則禁止、NY市が新方針-影響検証へ」TBS CROSS DIG with Bloomberg/Yahoo!ニュース
  2. 「ニューヨーク市、中学生以下の生成AI利用を1年間原則禁止へ…公立校約60万人が対象に」ビジネス+IT
  3. 「公立学校の生徒が高校生になるまでAIの使用を禁止するとニューヨーク市教育局が発表」GIGAZINE
  4. Kosmyna et al., “Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task”, MIT Media Lab/arXiv:2506.08872プロジェクトページ
  5. Lee et al., “The Impact of Generative AI on Critical Thinking”, Microsoft Research & Carnegie Mellon University, CHI 2025/論文ページ
  6. Sparrow, Liu & Wegner, “Google Effects on Memory”, Science, 2011
  7. ジョナサン・ハイト『不安の世代——スマホ・SNSが子どもと若者の心を蝕む理由』(西川由紀子訳、草思社)
  8. 厚生労働省・警察庁「自殺の統計」(令和6年)、こども家庭庁「青少年のインターネット利用環境実態調査」
  9. 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」令和6年12月26日/文部科学省

最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

大河原潤

大河原 潤

AI開発専門家

ブーム以前からAI研究に携わる、本物の専門家。「AIに使われる」のではなく、「AIを使いこなす」確かな技術力を提供します。

【アカデミックな裏付け】

  • カリフォルニア大学リバーサイド校 博士前期課程修了(研究分野:測度論、経路積分)
  • アメリカ数学会のジャーナルに論文発表

【社会的に認められた専門性】

  • AI関連書籍:『誤解だらけの人工知能』(2018年)、『AI×Web3の未来』(2023年)
  • プログラミング専門書:実務的な技術書を2冊出版(確かな実装力の証明)
  • 100社以上のAI導入コンサルティング実績、特許売却経験あり