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スマホは、子どもの心をどう蝕むのか——そして、いま必要なもの

POSII COLUMN

スマホは、子どもの心をどう蝕むのか
——そして、いま必要なもの

ジョナサン・ハイト『不安の世代』が示した4つの害と、4つの提言

日本の自殺者数は、全体では減っています。2024年は2万268人で、統計のある1978年以降ではコロナ前の2019年に次いで2番目に少ない水準でした。

その一方で、小中高生の自殺は529人。統計のある1980年以降で最も多い数字です。前年から16人増え、増加は続いています。とくに女子の増加が目立ち、女性は2年連続で増えて過去最多となりました。

大人の自殺は減っているのに、子どもだけが増えている。この非対称に、正面から答えを出した本があります。

世界で250万部売れた本が示したこと

ニューヨーク大学スターン経営大学院の社会心理学者ジョナサン・ハイトによる『不安の世代』です。原著は2024年刊、世界累計250万部、ニューヨーク・タイムズのベストセラー1位。日本語版は2026年1月に草思社から出ました。

ジョナサン・ハイト『不安の世代 スマホ・SNSが子どもと若者の心を蝕む理由』草思社の書影
▼ 本記事で取り上げる書籍
不安の世代 ―― スマホ・SNSが子どもと若者の心を蝕む理由
ジョナサン・ハイト 著/西川由紀子 訳/草思社/2026年1月30日刊
四六判480ページ/3,080円(税込)/ISBN 978-4-7942-2819-2

草思社 公式ページ Amazon(単行本) Amazon(Kindle版)

書影提供:版元ドットコム/草思社

ハイトの出発点は、統計の「折れ曲がり」です。

2010年前後を境に、10代のメンタルヘルス指標が各国で一斉に悪化した。うつ、不安障害、自傷、そして自殺。しかも同じ時期、30歳以上の同じ指標は悪化していません。景気や戦争のような社会全体を襲う出来事なら、大人にも同じ変化が出るはずです。出ていない。だからこれは、子どもと10代にだけ起きた何かだ——。

その「何か」として、ハイトは時期の一致を指摘します。2010年前後は、スマートフォンが子どもの手に行き渡り、SNSが日常になり、通知が一日中鳴り続けるようになった時期でした。

「遊びを基盤とした子ども時代」から「スマホを基盤とした子ども時代」へ

本書の中心にあるのは、この組み替えです。

かつて子どもは、大人の目が届かない場所で、自分たちだけで遊びながら育ちました。ケンカの仲裁も、ルールの調整も、危ない目に遭ったときの引き際も、その中で身につけていく。ハイトはこれを「遊びを基盤とした子ども時代」と呼びます。

それが「スマホを基盤とした子ども時代」へ置き換わった。起きている時間の大半を画面に向かって過ごし、人間関係の練習の場が、身体のある空間から画面の中へ移った。

現実の世界では過保護に、オンラインの世界では無防備に。

ハイトが指摘する矛盾がこれです。公園でひとりで遊ばせることは危険だとして禁じる一方で、見知らぬ大人が無数にいるネットには、何の準備もないまま送り出している。この2つは同時に起きました。だから原因はスマホだけではなく、現実世界から自由を奪ったことと、オンラインで自由を与えすぎたことの組み合わせだ、というのが本書の見立てです。

ハイトが挙げる「4つの害」

では、スマホ中心の子ども時代は具体的に何を奪うのか。ハイトは4つに整理しています。

  • ① 社会的な剥奪:対面で過ごす時間が減った。オンラインのやりとりは量こそ多いものの、表情・声・身体を伴う関係の代わりにはならない。友だちの数は増えたのに、親密さは薄くなったという状態が生まれる
  • ② 睡眠の不足:枕元の端末が就寝を遅らせ、夜中の通知が眠りを分断する。睡眠不足は、抑うつ・不安・集中力の低下と結びつく
  • ③ 注意の断片化:数分おきに届く通知が、思考をまとまった時間として使うことを妨げる。深く考える経験そのものが減る
  • ④ 依存:SNSやゲームは、人を引き止めるように設計されている。自分の意思で切り上げることが、大人でも難しい仕組みになっている

そしてハイトは、男女で現れ方が違うことも指摘します。

女子に強く出るのはSNSです。他人の加工された生活が一日中流れてくる環境では、自分との比較が終わりません。関係性のなかで起きる攻撃——仲間外し、既読の駆け引き、拡散——も、以前は下校すれば途切れたものが、いまは24時間続きます。日本でも増加が目立つのは女子でした。

男子に強く出るのは、ゲームや動画への没入と、現実世界からの撤退だとされます。目立たないぶん問題として認識されにくい、という指摘です。

ハイトの「4つの提言」

本書が売れた理由は、診断だけで終わらないところにあります。提言は具体的で、しかも4つに絞られています。

  • ① 高校生になるまで、スマートフォンを持たせない:連絡が必要なら、通話とメッセージに限った端末で足りる
  • ② 16歳になるまで、SNSを使わせない:比較と評価に最も傷つきやすい時期を、その環境から外す
  • ③ 学校をスマホフリーにする:「カバンにしまう」ではなく、登校時に預けて下校時に返す。手元にあるだけで注意は削られる
  • ④ 自由な遊びと自立の機会を、もっと与える:大人の監視のない時間を意図的につくる。危険をゼロにしようとしないこと

ハイトが繰り返し強調するのは、これを一人でやろうとしないことです。ひとりだけ持たせない親は「うちの子だけ仲間外れ」という現実に負けます。だから、学年やクラス単位で申し合わせる。同時にやれば、誰も損をしません。

日本の数字に当てはめてみる

こども家庭庁の調査によれば、青少年のインターネット平均利用時間は1日およそ5時間27分高校生では約6時間44分に達し、いずれも過去最長を更新しています。

睡眠と学校の時間を差し引けば、起きている自由時間のほとんどが画面です。ハイトの言う「スマホを基盤とした子ども時代」は、日本ではすでに標準になっている、と言ったほうが正確でしょう。

そこに、小中高生の自殺529人という数字が重なります。大人は減り、子どもは増える。本書が海外の統計で描いた形と、日本で起きていることの形は、よく似ています。

取り上げるだけでは、足りない

ハイトの提言は、どれも「減らす」「持たせない」という方向です。それは必要なことです。

ただ、スマホを取り上げても、不安定さそのものが消えるわけではありません。すでに不安を抱えている子にとっては、渡すものが無くなるだけになりかねない。

本書が繰り返し書いているのも、そこです。取り上げる前に置き換える先——現実の居場所と、自由に過ごせる時間——を先に用意すること。順番を間違えると、かえってしんどくなる。

そしてもうひとつ。自分の心がいまどういう状態にあるのかを、自分で把握できること。調子が悪いのか疲れているだけなのか、相談すべき段階なのかどうか。その目盛りがあれば、悪くなる前に気づけます。弊社がメンタルケアのAIで取り組んでいるのは、この部分です。

今日から変えられること

本書の提言のうち、家庭単位ですぐ始められるのは次の3つです。

  • 寝室にスマホを持ち込まない:4つの害のうち「睡眠」は、最も対策が簡単で、効果が実感しやすい部分です。充電場所をリビングに固定するだけで運用できます
  • 食卓と会話の時間は、全員が置く:子どもだけに求めても通りません。大人が先に置くこと
  • 持たせる時期を、まわりの親と揃える:ひとりで戦わない。これがいちばん実行を左右します

逆に、いきなり全部を取り上げるのは勧められていません。オンラインが唯一の居場所になっている子から、それを奪ったらどうなるか。置き換える先——現実の居場所と、自由に過ごせる時間——を先に用意することが、本書の提言の順番です。

最後に:「因果が証明されていない」という批判について

本書は世界的なベストセラーであると同時に、研究者からの批判も受けています。

科学誌ネイチャーに書評を寄せた心理学者キャンディス・オジャースは、ハイトが依拠する研究の大半は相関を示したものにすぎず、因果を示していないと指摘しました。関連の強さも「無い・小さい・まちまち」が入り混じっている、と。因果の根拠として挙げられている実験の多くが大学生や成人を対象にしたもので、13歳未満を対象にした実験はほぼ無い、という指摘もあります。

批判としては正当です。ただ、私はこれを「だから様子を見よう」の理由にはできないと思っています。

因果は、10年では立証されない

疫学的な因果関係が短期間で確定することは、まずありません。タバコと肺がんも、鉛と子どもの発達も、石綿と中皮腫も、決着までに数十年かかりました。スマホとメンタルヘルスの因果も、おそらく10年、25年という単位で議論が続くはずです。

証明を待てというのは、実質的に「数十年待て」と言っているのと同じです。

そして、資本のある側が有利になる

もうひとつ避けられない事情があります。「スマホが子どもに有害だ」という結論は、売る側にとって都合が悪い。

資本主義では、金のある側が研究にも発信にも有利です。タバコも、鉛も、石綿も、同じ経路をたどりました。業界は嘘をつく必要すらありません。「まだ決定的ではない」と言い続けて、疑いを残しておくだけで、社会の判断は先送りされます

おそらく25年後には、因果関係もある程度は立証されているでしょう。問題は、そのときにはもう遅いということです。

証明が出そろう頃には、いま10歳の子どもは成人しています。立証されてから気づきました、では間に合わない。決着を待ってから動く、という選択肢が存在しないのが、この問題の性質だと思っています。

まとめ

  • 2010年前後から、10代のメンタルヘルスが各国で一斉に悪化した。大人には同じ変化が起きていない
  • 原因は、「遊びを基盤とした子ども時代」から「スマホを基盤とした子ども時代」への組み替えである
  • 害は4つ。社会的な剥奪、睡眠不足、注意の断片化、依存
  • 提言も4つ。高校生までスマホなし、16歳までSNSなし、学校はスマホフリー、自由な遊びを増やす
  • そして、ひとりでやらず、まわりと揃えて同時にやる
  • 因果の立証を待つ、という選択肢は無い。証明が出そろう頃には、いまの子どもは大人になっている
  • ただし取り上げる前に、置き換える先を先に用意すること。順番を間違えない

日本の数字——高校生の1日6時間44分、小中高生の自殺529人——を前にすると、この本の指摘は他人事ではありません。

まずは今夜、充電器をリビングに移すところから。それだけでも、4つの害のうちひとつには手が届きます。

まずは今夜、充電器をリビングに移すところから。それだけでも、4つの害のうちひとつには手が届きます。

参照データ
小中高生の自殺者数(2024年/令和6年):厚生労働省・警察庁「自殺の統計」
青少年のインターネット利用時間:こども家庭庁「青少年のインターネット利用環境実態調査」

最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

大河原潤

大河原 潤

AI開発専門家

ブーム以前からAI研究に携わる、本物の専門家。「AIに使われる」のではなく、「AIを使いこなす」確かな技術力を提供します。

【アカデミックな裏付け】

  • カリフォルニア大学リバーサイド校 博士前期課程修了(研究分野:測度論、経路積分)
  • アメリカ数学会のジャーナルに論文発表

【社会的に認められた専門性】

  • AI関連書籍:『誤解だらけの人工知能』(2018年)、『AI×Web3の未来』(2023年)
  • プログラミング専門書:実務的な技術書を2冊出版(確かな実装力の証明)
  • 100社以上のAI導入コンサルティング実績、特許売却経験あり