社内RAGは、小さく始めたほうが安い
——検討する順番と、最初にやめるべきこと
社内RAGの相談でいちばん多いのが、「全社の文書を全部入れたい」という出発点です。気持ちは分かるのですが、これが費用を最も膨らませます。
そして厄介なのは、お金をかけた案件ほど使われなくなることです。この記事では、何から手を付けるべきかを順番で書きます。
最初にやめるべきこと:全社一斉に入れる
全社の全文書を対象にすると、3つが同時に起きます。
| 起きること | 結果 |
|---|---|
| 文書の状態がバラバラになる | スキャンPDFもExcelも版の重複も全部相手にすることになる |
| 権限が複雑になる | 部署 × 役職 × プロジェクトの組み合わせを最初から設計する羽目になる |
| 誰の課題も解いていない状態になる | 「何でも聞ける」は「何を聞けばいいか分からない」と同じ |
3番目が見落とされがちです。対象を広げるほど、一人ひとりにとっては使う理由が薄くなります。
全社に配ったものは、
誰のものでもなくなる。
検討する順番
1. 対象をひとつに絞る
ひとつの部署、ひとつの業務から始めます。ここが最も費用に効きます。
選ぶ基準は2つです。
- 同じことを何度も聞かれている業務。問い合わせが多いほど効果が見えやすい
- 文書の状態が良い部署。整理されたテキストがまとまっているところ(なぜ状態が効くのか)
よくある良い出発点は「情シスへの問い合わせ」「経理への申請方法の質問」「新人からの手続きの質問」です。聞く側も答える側も、同じやりとりを繰り返しているという自覚がある領域から始めると、効果がすぐ数字になります。
2. 既存のPostgreSQLを使う
専用のベクトルデータベースを契約する前に、すでに動いているデータベースで足りないかを確かめます。
10万チャンクでも150MB程度なので、最初の一歩でこれが足りなくなることはまずありません。必要になってから移せば十分です(費用の内訳はこちら)。
3. 埋め込みはローカルモデルで試す
有料APIを使う前に、サーバー上で動くモデルで精度を見ます。ここで十分なら、文書量に比例した費用が丸ごと発生しません。
それ以上に効くのが、やり直しが無料になることです。分割の仕方を何度でも試せるので、妥協せずに精度を追い込めます。足りなければ、そのとき有料APIに切り替えれば済みます。
4. 権限だけは最初に設計する
1〜3は後から変えられますが、これだけは後回しにできません。
権限は文書単位ではなくチャンク単位で必要になるので、後から足すと分割のやり直しになります。後から効いてくる費用に詳しく書きました。
小さく作ると、判断できるようになる
順番の話をしましたが、本当の理由は費用よりこちらです。
RAGは、作ってみないと使われるかどうか分かりません。精度が想定より出ない、想定と違う質問ばかり来る、そもそも誰も使わない。どれも実際に起こります。
だからこそ、確かめるための投資と、広げるための投資を分けるべきです。
| 段階 | 目的 | 判断すること |
|---|---|---|
| 小さく作る | 使われるかを確かめる | 広げるか、やめるか |
| 広げる | 対象と精度を伸ばす | どこまで投資するか |
最初から数百万円をかけると、「使われていない」と分かったときに引き返せなくなります。投じた額が大きいほど、やめる判断が難しくなるからです。
数十万円で確かめられることに、数百万円をかける必要はありません。
広げるときに考えること
最初のひとつがうまくいったら、次はこの順で広げます。
- 同じ部署の別の文書を足す。権限の設計を変えずに済むので最も簡単
- 隣の部署に広げる。ここで初めて部署をまたぐ権限が必要になる
- 全社共通の文書を足す(就業規則、経費規程など)。誰でも見てよいので権限は単純
- 横断検索を有効にする
3番を先にやりたくなりますが、全社共通の文書ほど版の重複が多い傾向があります。整理の手間が読めないので、勢いがついてからのほうが安全です。
まとめ
- 全社一斉に入れない。対象を広げるほど、一人あたりの使う理由が薄くなる
- 順番は ①対象を絞る → ②既存のDBを使う → ③ローカルモデルで試す → ④権限は最初に設計
- ①が最も費用に効く。同じことを何度も聞かれている業務から始める
- ④だけは後から変えられない
- 確かめるための投資と、広げるための投資を分ける
- 大きく作るほど、やめる判断ができなくなる
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