「信用」という言葉、あなたはどのように捉えていますか?ビジネスシーンから日常生活まで、ありとあらゆる場面で使われるこの言葉は、非常に便利であると同時に、その意味が曖昧なゆえにどのようにでも「加工」できてしまう危うさも持っています。
真面目さや勤勉さを「信用」の証と捉える人がいる一方で、そんなものはどうでもよく、結果のみを重視して「信用」を判断する人もいます。 つまり、「信用」とは、組織や場面によっていかようにも変形するものであると認識しておく必要があります。

「信用」の正体は「期待値」である
私は個人的に、「信用」を**「期待値」**という形で定義しています。ある人や組織に対して、私たちが何を期待しているか、そしてその期待がどれだけ満たされるか、それが「信用」の本質だと考えています。
では、世間一般ではどのように定義されているでしょうか?「嘘をつかない」「真面目」「誠実」「時間を守る」など、人によって、あるいは組織によって、その定義は様々です。たとえば、伝統的な企業では「勤勉さ」や「協調性」が信用に繋がるかもしれませんし、スタートアップでは「スピード感」や「柔軟性」が重視されるかもしれません。
組織特有の「信用」とヤクザの「仁義」
さらに深く考えてみましょう。極端な例ですが、映画やドラマで描かれるヤクザの世界にも「仁義」や「任侠」といった独特の「信用」の尺度が存在します。彼らの社会においては、それが行動規範となり、組織内の関係性を築く上で不可欠な要素です。
また、私たちの身近な例で言えば、銀行からお金を借りる際の「信用」はどうでしょうか?ここで最も重視されるのは、過去にどれだけきちんと借金を返済し、利子を支払ってきたか、という実績です。つまり、銀行があなたに「期待」するのは、「約束通りの返済」であり、その期待に応え続けてきたかどうかが「信用」の基準となるわけです。
これらの例からわかるのは、「信用」とは、その組織やコミュニティにおいて何が期待されているかによって大きく変わる、ということです。そして多くの場合、その組織に特有の「信用」の尺度が強く作用しています。
危険な「循環定義」と「信用」の乱用:人を操る道具としての「信用」
さて、もしあなたが「信用とは何か?」と尋ねた時に、その答えが一切ない、あるいは「信用が信用を生む」「信用とは貯めるものだ」「信用とはクレディビリティのことだ」といった、いわゆる循環定義のような返答が返ってきたとしたら、それは非常に危険な兆候かもしれません。
このような組織や個人は、その場その場で都合よく「信用」の意味を変更し、解釈をねじ曲げることができます。彼らにとって「信用」は、都合のいいように使える「道具」であり、本来の「期待値」としての意味合いは薄れてしまっているのです。
さらに言えば、このような曖昧な「信用」の定義を盾に、人々を意のままに操ろうとするケースも少なくありません。「信用を失うぞ」「お前の信用は地に落ちた」といった言葉で相手を心理的に追い詰め、自分の都合の良いように動かそうとするのです。このような組織は、個人の自由な意思決定を阻害し、支配的な関係性を築く可能性が高く、非常に危険だと言えるでしょう。
開発における「期待値調整」と「小さく始める」ことの重要性
私の開発経験から言っても、この**「期待値調整」**は非常に重要です。特にAIのような最先端技術を扱う場合、相手に「AIであんなこともこんなこともできる!」と過度に期待させてしまうのは非常に危険です。
例えば、概念実証(PoC)の段階で、AIがまるで魔法のように何でもできるかのような期待を持たせてしまうと、実際に動くものが提示された時に「何かおかしい」「期待したものと違う」といった不満に繋がりかねません。最悪の場合、プロジェクトそのものが頓挫してしまう可能性さえあります。
だからこそ、PoCの段階では「このAIは、あくまでこのぐらいのことしかできませんよ」と、できることとできないことの境界線を明確に示し、期待値をしっかり調整することが不可欠です。まずは小さくスタートし、着実に成果を積み重ねていくこと。その小さな成功体験が、やがて大きな信用へと繋がっていくのです。現実的な範囲で成果を出し、着実に信頼を積み重ねていく姿勢こそが、真の「信用」に繋がるのです。
「信用」という言葉の裏にあるものを見極める
「社会」というのは、まさにこの「信用」によって円滑に回っています。しかし、この曖昧な「信用」という言葉を客観視できるかどうかで、私たちが社会でいかにうまく立ち振る舞えるかが変わってきます。
ある組織における「信用」の形が、あたかもそれが唯一の絶対的な「信用」であると思い込んでしまうのは非常に危険です。さらに、自分たちの組織の「信用」こそが唯一の「信用」であると信じて疑わない組織もまた、非常に危険だと言えるでしょう。
本当に信用できる相手かどうかを見極めるためには、その人が「信用」という言葉の裏に、具体的な何を「期待」し、どのような「実績」を積み重ねてきたか、そして何よりも、あなたの期待にどのように応えようとしているのかを、しっかりと見極める必要があります。
あなたの周りに「信用」という言葉を多用する人はいませんか?その言葉の裏にある真意を、一度立ち止まって考えてみるのも良いかもしれませんね。